寄稿2-留学のすゝめ
留学のすゝめ
これまでの人生を振り返って自分にとって有益だった事はと聞かれたら、私は迷わず「研究留学」と答えます。
医師4年目に大学院に進んだ私は、指導教官から研究のイロハを徹底的に叩き込まれました。実験に使用するマウスの世話から始まり、実験を開始しても仮説通りの結果が得られない等、試行錯誤の連続でした。しかし臨床医学とは異なる分野を経験出来たことは実に有益でした。学位取得後、「今後は臨床で頑張ろう」と思い臨床の現場に戻りましたが、研究への郷愁ともいえない気持ちが自分の中で大きくなっていました。
そんな中、留学のチャンスが巡ってきました。私が所属する九州大学循環器内科はこれまで多くの先輩方が留学されており、頻繁に留学よもやま話を耳にする機会があったため、「いつか自分も」と思っていたのです。私の留学先は米国東海岸フィラデルフィアにあるジェファーソン医科大学のCenter for Translational Medicine部門でした。当時は独身であったため単身渡米となりましたが、街の規模、同時期にニューヨーク・ボストンなど近郊の街に留学していた同期の存在などがあったため、「何とかなるさ」と元来の楽天的な性格で考えていました。私の属した研究室はアメリカ人をはじめカナダ、インド、中国、台湾、ドイツ、ギリシアなど多様な顔ぶれでした。そして殆どが医師ではなく理工学部出身でした。和気藹々としたラボの雰囲気の中にも「研究で身を立て有名になってやる」といった決意・熱気がみなぎっていました。
その中で私は実験結果を得るための実験ではなく、結果を医学にどう貢献できるかを常に考えながら研究に臨みました。休みの日には旅行や釣りにも出かけましたが、休みを取ることで気持ちをリセットさせると共に、自分の立ち位置および研究の進捗状況を認識し、限られた留学期間の中でどうすれば効率よく結果を出すことが出来るかを再度検証しなおす良い時間となっていました。帰国して8年が過ぎましたが、研究に邁進することで得られた洞察力、真実を見極める力、忍耐力は今も臨床の現場で役立っています。もちろん異文化での生活は楽しく、視野が広がりましたが、医師としての資質を高めてくれたのは研究そのものであったと思います。
異国の地で、何かひとつのことをやり遂げたことは臨床医としてこれからも大きな自信となると考えています。チャンスがあるのなら、人間として医師として一回りも二回りも大きくなるため、一歩踏み出すことをお勧めします。チャンスがなくても、強い信念を持ち続ければ、いつか留学への道が開けると思います。若い先生方の活躍を期待してやみません。